斉藤アイさん インタビュー編 第3話

1人目の女性は、福井でフリーヨガインストラクターとして活躍する斉藤アイさん。
女優を目指していた20代を経て、ヨガと出会い、結婚を機に福井県大野市へ。
嫁いだ先は大野の山奥のお寺光徳寺。
1981年6月20日うまれ 岡山県出身

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第3話「つるつるぴかぴかだったから」

———さて、当時、東京にいたアイさんと大野市にいた未来の旦那さん、どんな出逢いでしたか?

出逢ったときはそういう特別な感じはなかったんですけど…。
大野の宝慶寺というお寺でわたしの友人がボランティアをしていて、東京からその子を訪ねて遊びに来ていたとき宝慶寺にも遊びに行ったんです。
そしたら、もう高齢のご住職さんが中へ招き入れてくれて。
わたしそのころ尼さんになりたくて、その話をしてみたんです。

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———尼さんになりたかった!?

はい。
そのころのわたし思い詰めてて、ちょっとふつうの世の中から距離をおきたいと思ってたんです。
もううんざりんだ! みたいな。

———東京では、腹黒い人か、見た目が悪っぽい人をたくさん見たと言ってましたもんね。

そうそう! そうなんです。
そんな人たちからは離れたいと思って、ぴかぴかでつるつるのきれいなお顔をした旦那さんと会ったとき、「結婚するならこんな人かなー」みたいな。
なんとなく。

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もうそのころ、ヨガのインストラクターになってたし、仕事が増えていたころだったので、これでいいかなーって、こうやってヨガをみなさんに伝えていければいいかなーと思って。
それならもう尼さんにならなくてもいいやって思ってたんですけど、宝慶寺を訪ねたときのわたしは、なにかに思い詰めてて、尼さんの話をしたんです。
宝慶寺から帰って友だちの家にいたら、電話がかかってきて。
ご住職さんが「今から山を降りるから。アイさんに話があるからサラダ館(※喫茶店)に来てくれ」と言われたんです。
そのころ大野には今みたいにたくさんカフェはなかったので、唯一の喫茶店、サラダ館で、「女性は尼さんになるのもいいけれど、結婚するのがいちばんの幸せだ」と、言われて、そういう考え方もあるなと。
そうしたら、「いま、自分のお寺にもうすぐ他のお寺の住職になる人がいる。
その人と合うんじゃないかなーと思って」と言われて。
ご住職の段取りでお会いすることになったんです、2ヶ月後。
友だち夫婦の家でご住職と未来の旦那さんと5人でごはんを食べたんです。

———そのときが初めての出逢いだったんですね!

そのときから旦那さんは頭がかたい人だなーと思ったんですけど、ほっとけない何かがあったんですよ。
あぶなっかしい! ほっとけないこの人! 頭かったいなー、みたいな。笑
で、母性が出ちゃったんですね。
断りそびれて東京と福井を行ったり来たりして、1年後には結婚式だった。笑
会って4回目くらいで「結婚しましょう」みたいな。
わたし、まっすぐこられたこと今まで少なくて。

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———お寺に嫁いでどうでした?

思っていた感じとは違ってましたね。

———お寺という、すこし特殊な世界ですもんね。結婚してみて、旦那さんとはどうでしたか?

旦那さん、特殊な人で。笑
てこずりました。

———てこずった?

最近ようやく結婚当初より、やわらかくなってきましたけどね。
本人が言うには、小学生のころはもっとおおらかだったって言うんですよ。
クラスでもみんなを笑わせるくらいひょうきんだったと。
たしかに、たまにぼそっと言うんですよ。
なにそれ! そのギャグ! 
そんなセンスのいいギャグどこから出てきた!?
というのを、すごいタイミングで言ったりするんです。
でも、それを小学4年生のときに封印したんですって。
で、今の頭かっちかちの旦那さん。笑

———思い詰めていくタイプですね?

この人ほっといたら死ぬんじゃないかな? と思いますね。
まじめでいろんなことに疑問を抱いて、探求しないと納得しない。
それがお寺という、またむずかしい分野なので、ひとりで禅問答してるみたいな。
寺の廚は本の山です。
ひとり禅問答中に、わたしが投げやりに言葉を発するから、それがいやみたい。笑

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———いいコンビだなと感じましたよ!

思い詰めてるときは、ほっとく。
好きにしてください的な。笑
でも、小学校のころの旦那さんが出てくると、あははははははははと大いに楽しんでます。
結婚当初はそれがゼロで、100が思い詰めてる感じでした。
今はすこし増えてきましたけどね。

———それって、アイさんがそばにいるからですね!

そうだと思います。笑
あたたかさが必要な人なんだなって思いました。

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———ヨガの精神性って? 理解するのはむずかしいですか?

言ってることはシンプル。
自分のほんとうの、本質的な自分で生きていきましょう
というのがヨガのいちばん言いたいこと。

———これまでアイさんの大きな転機になった、ちいさい自分が沖縄に行けって言ったことや、
なにがしたいかわからないと叫んだちいさな自分が、そのときのほんとうの自分ということ?

そう。だから、つらいこととかあっても、そのちいさな本質の自分が、「もういやだ、逃げだしたい」って思ってなかったら、そこにとどまるべきだなと。
外側の自分は「もう大野いやだー東京帰りたい」と言ってたりするときもあるんですけど、でも、ちいさなわたしがここにいることに幸せを感じているんです。

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———外側の自分ってなんですか?

顕在化している意識のことかな。
実は、顕在意識はわたしたちの行動に5%しか影響してないんですよ。
ほとんどは潜在意識が行動を管理していて、どんなに言葉で「もう来ないで」と言っても、そうならないのは、ほんとは潜在意識が「ここにいて」と言ってるかららしいです
それを学んだときに、「こまったわたし」でいたかったんだと気づきました。
潜在意識の中に「かわいそうなわたし」と「みじめなわたし」という2つを住まわせていたんです。

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「いつまでたっても、旦那さんはダメだなあ、頭もかたいし。
そのうえ、あんな大野の寺に嫁にいってかわいそうな人だな」
って、よしよしって言ってもらいたかったのかも。
最近はそれはダメだ、やめようって思えるようになって。
そうすると旦那さんが変わってきたんですよ。

家事を手伝ってくれたり。

———ふしぎ! 特に言葉を意識したわけでもなく?

意識はしませんでしたが、わたしの接し方も変わっているのかもしれないですね、
潜在意識をちゃんと処理できると。
ヨガはその潜在意識にアクセスするんです。
ヨガをやってるとき顕在意識はだんだん眠っていって、潜在意識が浮き彫りになっていくんです。

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———へえー!

ヨガは「つなぐ」という意味もあるんですが、あるヨガ指導者が言うには、「ヨガとは暴いて、そして癒す」ということだそうです。
意識というひかりで、見えていなかったところにひかりをあてるんです。
ひかりにあてられると無意識は逃げ場所がなくなる。
あとは出てくるしかなくなる。
出てきたら、もう明らかになっていくしかない。
そうすると顕在意識になってくる。
顕在意識にあるものは自分でなんとかできるようになる。

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———「みじめなわたしでいたい」ということに気がついて、顕在意識になったわけですね。どうやってチェンジしていくんですか?

みじめなときの気持ちを思い出すんです。
こころに感じるんです。
そのみじめな自分に対して話しかけるんです。
「つらかったねー」とか「もうそんなにみじめじゃなくていいんだよー」って抱きしめてあげる。
みじめになろうとしなくていいんだよ、幸せになっていいんだよって。
そうするとなんか癒されていくんです。

———毎回、そんな自分が出てくるたびに話しかけてあげて浄化していくんですね。

成仏させるんでしょうね。

———なるほど! ヨガすごい!

ヨガは、こころのセラピーにもつながるんです。
レッスンで皆さんをどういざなうかというスキルはまだないんですけど、ヨガを通じると、明らかに潜在意識にアクセスしやすくなります。
それから、やっぱり呼吸が大切なんですよ。
呼吸と動きを連動させることが大事。

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さて、次回は斉藤アイさん最終回。
アイさんの思う「究極のオーガニック」や大野の好きなところ、
そして着てもらったCinq symphonieのことなど。
どうぞ最後までお楽しみください。

取材・文:吉田知奈(あわら市出身)写真:前田 龍央(福井市出身)